2010年5月9日日曜日

幸せ(母をおもふ)



畑の隣にある保育園、一組の母子にいつも目が留まります。

冬であろうが夏であろうが雨であろうが風であろうが
自転車の前カゴに昼寝用の布団を乗せて送迎をしています。

母の強さと我が子への愛情が感じ取れ、自分自身の母への想いと
重なってしまうのです。

女の幸せの一つであり、またその男の子は幸せです。

この歳で 母想うと 涙する


母をおもふ   高村光太郎
 
 
夜中に目をさましてかじりついた
あのむつとするふところの中のお乳。
 
「阿父さんと阿母さんとどつちが好き」と
夕暮の背中の上でよくきかれたあの路次口。
 
鑿で怪我をしたおれのうしろから
切火をうつて学校へ出してくれたあの朝。
 
酔ひしれて帰つて来たアトリヱに
金釘流のあの手紙が待つてゐた巴里の一夜。
 
立身出世しないおれをいつまでも信じきり、
自分の一生の望もすてたあの凹んだ眼。
 
やつとおれのうちの上り段をあがり、
おれの太い腕に抱かれたがつたあの小さなからだ。
 
さうして今死なうといふ時の
あの思ひがけない権威ある変貌。
 
母を思ひ出すとおれは愚にかへり、
人生の底がぬけて
怖いものがなくなる。
どんな事があらうともみんな
死んだ母が知つてるやうな気がする。

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